akier’s note

Product Management, Design, Software

EngバックグラウンドPdMを誰がなぜ必要としているのか

私は今とあるIT企業で(少なくとも肩書は)PdMとして働いている。
有名なマーティ・ケイガンの『Inspired』を読むと辛くなるくらい必要な力量は付いていないが、それでも何とか1年はクビにならず働いている。

1年働く中でふと、「よくよく考えたら、EngバックグラウンドのPdMって本当に需要あるの?」という疑問を(今更)抱き、色々話を聞いていたらなんとなくその答えが見えてきたので、ここに記す。

そもそも私がなぜPdMを目指したか

もともと私がPdMという職種を目指したのは、ITとビジネスの双方を考えてサービスを立ち上げたり伸ばしたりすることが、ITコンサル会社でSWEとしてもITコンサルとしても働いていた当時の自分のキャリア的に最も相性が良かろうという軽い気持ちが発端であった。

また当時通っていた大学院でもサービス開発の真似事を実践し、「あぁサービスがゴミだとどんなに美しいコード書いても意味ないな。でもビジネスだけしかわからないとコードがゴミになるんだよな。」と思ったことも、ITとビジネス両方を考える職種であるPdMへ興味をもったきっかけにつながった。

EngバックグラウンドのPdMってどこで需要あるの?

上記のような背景で転職をしたため、当時の私にはPdMが今後メジャーな職種になるのかどうか、いまいち確信が持てなかった。いわゆる見切り発車である。

大体PdMといっても、会社によっては実質PjMを募集しているし、あの有名な及川さんも「PdMは事業の成功のために必要なことは何でもやりましょう」とか「本当に解く価値のある課題(できれば複数)を特定し、最適な方法で解く方法を考えよう」とか、別にそれPdMでなくても必要だよねレベルのことしか言っていない。

いま“企業がどうしても欲しい”PdM像を【土屋尚史・杉浦正明・丸山貴宏・及川卓也】が徹底討論!【PMC2019レポート】 - エンジニアtype | 転職type

職種的に「なんでもやりましょう」が求められる上に、会社によってイメージも違うPdMという職種へニーズが高まっていると言われても、意地悪な言い方をすれば都合のいいスーパーマンを求めてるだけなんじゃないのと思ってしまい、悶々としていた。

オペレーション最適化の先を目指している会社

上記のようなことをぼんやりと考えながらいろいろな会社の人と話をしていたら、気がつくことがあった。

そもそも私が見聞きする(つまり私のバイアスが入っている)範囲で成功している会社というのは必ずITを活用している。今話題のワークマンもCaddiもラクスルもそうだ。ある意味では、もう9年も前になる、ホロヴィッツが言っていた"Why software is eating the world"の延長線上で未だに物事は進んでいるということになる。

そして、そんな会社が成長するステップもどうやら以下の1と2に分けられるらしい。

  1. 自社事業のオペレーションをIT化することで、圧倒的なコスト削減やPDCA高速化につなげる
  2. ITを活用するからこそ提供できる新しいユーザー体験、それによってインパクトが出せる領域の発見とソリューションの創出

例えばワークマンは1を達成したことになる。一方ビズリーチは自社事業である転職エージェントの中で発見した「客観的な判断に基づく“採用→評価→育成→配置”ができていない会社が多い」という課題に対してHRMOSというサービスをローンチしている。

分かってきたのは、EngバックグラウンドのPdMを求めているのはこの2について実践している、または実践しようとしている会社であるということだ。

自社事業のオペレーションを最適化するだけでは日本一には(多分)なれない

先程から何かと引き合いに出すワークマンは現在年間の売上が900億程度、一方ユニクロは8800億程度である。ワークマンが日本一を目指すかどうかはさておき、このままの戦略ではユニクロを抜かすには彼らが落ちてくるのを待つほか無いということは想像がつく。どんなにオペレーションがうまくてPDCAが速くても服屋は服屋である(それが悪いわけではない)。世界一を目指すのであれば服屋ではない何か、へ転身するしかない。

つまり自社事業の再定義が必要となるわけだ。マイクロソフトWindowsとOfficeで儲けるためのリソースを捨ててでもAzureに舵を切ったように。ビズリーチはコアビジネスの転職エージェントサービス用のリソースをあえて、(傍から見る分には)儲かるかどうか分からない人材活用プラットフォームに投入している。これでもまだ無難な投資だとは思うが。

おそらくオペレーション最適化をゴールにするのであれば、やる気のあるソフトウェアエンジニアへ”ユーザー業務”を体験でもさせて、彼らが思う改善方法というのを地道に積み重ねれば良い。それが難しいという話もあるが、それはそういうことをやってくれるソフトウェアエンジニアなりプロジェクトマネージャーが雇えないという話であって、PdMはあんまり関係ない。

ただし事業創出となるとそうもいかない。なにせ今は存在すらしないサービスなのだから体験も何もない。必然的に仮説検証を重ね着実に前進できる(または潔く撤退できる)人材が必要となる。そして今はMVPだのリーン開発だの、最小限の機能を兼ねそなえた実際のサービスをリリースしないと仮説検証って無理じゃねという話が多い。(個人的には、それアプリ作らなくてもユーザーインタビューなりペーパープロトで良くない?っていうか行動観察しました?という事例が圧倒的に多いが)

こういうことを考えられる人材は、確かにEngバックグラウンドのPdMが適切かもしれない。Engバックグラウンドがないと見積もりができない、無駄に実装コストが高い設計にしてしまう、そもそもありものを組み合わせれば良いものをわざわざスクラッチ開発してしまう、といった事故につながるリスクが高いのだろう。

ただでさえうまくいくかどうか分からない新規事業立ち上げにおいて、そういう"防げる事故"は防ぎたいだろう。余談だが私が転職して徹底的に叩き込まれたことは「作らないという選択肢を第一に置くこと」であった。 

ということで、誰がどういう理由でEngバックグラウンドのPdMを求めているのか、がある程度腹落ちできた。そんなん知ってたわという人が大半なのだろうが。